「君去りて」

 

                佐 藤 悟 郎

 

 

波荒き浜辺に立ち 思いは乱れる

頭上の雲の流れは早く 飛沫が身を打つ

声の限りに叫び 思いを遠くに馳せ

君を求めてさまよい この地に来れど

君の姿は もうこの地にはなかった

 

君は黙って 流浪の旅に出た

君の心も愛も 思い出も忘れるかのように

私は知っている 最後の笑顔を見せたとき

その笑顔の中に 君は悲しそうな目をしていた

笑顔が失せたとき 君は黙って旅に出た

 

君の旅は 悲しく寂しい旅だ

春が来ても 秋の寂しさを湛え

夏が来ても 冬の寂しさを感じ

ただ抜け出すことのない 心だけの旅だった

君の書を見て 限りなく涙を落とした

 

君は余りにも苦しみ 君の心さえ見限った

君の生命は そうしなければ絶えただろう

人は寂しく 人は空しく 人は悲しい

時の無限に比べれば 何の意味も持たない

君の人生は 全てが裏切られたのだろう

 

何もかも諦めることから始まった 君の姿は悲しい

春のそして夏 秋の花の美しささえ知らない

ただ冬だけの野原に 花を求める君は寂しい

ただ迷い さまよう野原は ただ寂しい

思いは千路に裂けて 乱れたのだろう