「寂寞の野辺に」

 

             佐 藤 悟 郎

 

 

暗い雲と共に雪が舞い降りる

白い寂寞とした野辺が急に広がった

彼方は木立の影すらない静かさだ

君は一人で彼方へと歩くのだ

運命は君を迎えに来ている

 

君はただ野辺の片隅に佇み

愚かにも戸惑っている

君はただ歩き出さなければならないのに

何の備えもせずに眺めているだけだ

いつも勇敢な心を持つべきなのに

 

人はいつも寂しいものだ

そして劣った自惚れの心しかないものだ

我を嘆き呪いつつ歩み

そして何処かへ行かなければならない

人はこうして悲しみを持っているのだ

 

歩かなければならない君もだ

愚かな歩みは何時しか留まるだろう

安らかな地も君には見えだろう

しかし休んではならない

放浪の身の君は歩き続けるだけだ

 

悲しみが君に訪れ そして苦しみも

君は気が付くだろう 君の無知を

君は見るだろう 君の貧しい姿を

君は嘆き涙を頬にしてさ迷うだろう

何のために歩いたのか疑いながら

 

君はその時想うだろう 人の愛を

ただ懐かしく尊いものだと

いかに思うとも 君が小さいものか

いかに涙しても 君の愛は偽りか

真実の道が如何に分からないものか

 

君は転げながら野辺を歩き

我を疑い 世を呪い叫ぶだろう

それが君の姿なのだから

暗い雪の野辺は君の心なのだから

涙が 熱い涙が雪を溶かすだろう

 

緑の野辺が君の前に甦るだろう

愛が 優しさが君を導くだろう

野辺に水が流れ 小鳥が囀り

そして暖かき陽光が射すだろう

従順な君の暖かい心を讃えながら

 

 

      平成三年一月十三日