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    「不動なる事象・事物」

 

                          佐 藤 悟 郎

 

 

 文学の研究者ではなく、創作の職人だと思いたい。職人は、作品の創作手法について多角的に考えていかなければならない。不自然な創作をする時代は過ぎ去った。現代における不動なもの、変わらないものを無視しては、創作の自然性は失われる。

「秋の山に登った。そこには桜が咲き乱れていた。」

このような文章を書いてはならない。ただし特別の場合は許されるだろう。

 

 不動の事象・事物は、人の感覚に欠かせない要素である。小説を書く場合、あるいは考える上でも欠かすことのできない重要な要素である。私が書くことは哲学ではない。職人が認識することであって、その観念を特に定める必要はない。

 

 時の流れは人にとって抗しがたい。時の流れで事物・事象が生まれ、そして事物・事象は消えていく。春が過ぎ、夏となり、秋を迎え、やがて冬となる。そしてやがて春がやってくる。春夏秋冬で一年が過ぎ、その中で人間は生まれ死んでいく。

 

 時は絶え間なく朝、昼、夜を巡り変わらない。太陽と月を迎えては送っていく。時が雲を呼び、雨と雪を降らせ、嵐を呼ぶ。