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「感動について」

 

      佐 藤 悟 郎

 

 

 青年期を過ぎ去ったためか、心に感動を覚えることが少なくなった。感動は、私の全ての源泉であるはずなのに。寂しいというより、人生上の深刻な問題である。人間としての単純さ清純さが無くなったのか、心が誤った方向へ向かったのか、大方全てが当たっているだろう。この欠点は、執筆活動上での致命的な打撃である。

 

 人間の感動を誘わない文学は存在しない。人間の感動を抑制した文学、所詮それは文学ではない。情景にしろ、心理にしろ、全体にしろ、感動を誘わないものは、その生命を失っている。

 

 心を作り上げるという観念がある。しかし、人間の心は常に自然に存在し、そして自然の流れに沿って働くものであって、決して作り上げるものではない。感動しないということは、心に感動が伝達することに、何らかの障害があるということにならないだろうか。その障害とは、知識や経験であるのかもしれない。喜怒哀楽の感動を持つことを恥とする、そんな思惑があるのかもしれない。受け入れることに制限はないはずである。行動に出さなければ、それはそれでよいのではないだろうか。

 

 物事を心に当てて思う癖をつけなければならない。全てが苦しみを受け入れるのではない。反発し、跳ね返すのでもない。心で捉え、心の中で感動する性格を持つことである。そうなるように心掛けることである。考え思うことと、行動に出すことは別のことである。心の内をよく維持し、苦しみを超えていかなければならない。これは、確かなことである。