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「君への最初の問いかけ」

 

佐 藤 悟 郎

 

 

 原稿用紙を前にして、君は、一体何を悩んでいるのだ。作品を書くことができないからだろう。そうそう、作品なんて、君が悩むように、そう簡単に生まれはしないだろう。特に、君のように、小さな頭脳なのに、高望みをしていてはね。

 

 君の頭の中には、確かに意欲だけが渦巻いているのが分かるけど、ただ混乱しているだけなんだ。多くのことを単純な流れに変える必要がある。逆戻りするように、君は思うかも知れないけれど、君はもうある程度の正しい熱意があるから、昔の二の舞とはならないと思うよ。

 

 君の性格から見ると、とにかく書き始めることが大切なんだ。それも、丁寧に書き始めることだ。全体的構成を考えるには、君は未熟と言うよりは、性格的に合わないと言った方が正しい。恋を語りたかったら、そのように書き始めることだ。世の中に珍しくもないことから、君は出発できる図々しさを持っている。それは、君の利点なんだ。

 

 書き始めたら、どんどん話を大きく展開させていったらどうだろうか。纏めようとすることではない。精一杯展開させることだ。それには時間も、労力も必要なんだ。ある程度の期間もかかるんだ。最善の知識と心を傾けて、展開させるんだ。文章を丁寧に書いていき、大切に書き続けることだ。作品の終末は、書き続けるうちに、君ならきっと見つけ出すことができるだろう。

 

 最初のうちは、駄作が続くことになると思う。誰でも、そういう経験をするのだ。一日に二枚の原稿を書いてみたまえ。一週間で十四枚、一か月で、何と、六十枚もの原稿が、君の目の前に積み重ねられるだろう。一日四枚であれば、その倍になること位、知らないはずはない。だから、とにかく書くことが大切なんだ。君の悩みの多くは、書くことによって解決されていくだろう。

 

 君が悩んでいることは、一体、具体的にどのようにしたら良いのかであろうと思う。多分、どのようなことを作品の素材にしたら良いのか、ということになるのだろうと思う。それは最初に突き当たる難問でもある。一つには、素材帳的な物を作っていく方法もある。恋物語であれば、その類型的な素材を掻き集めるという方法である。今まで、君は、この点でも失敗している。それは、大切に書かなかったからだと思う。題を付しただけで、一体、何の役に立つのだろうか。

 

 ただ、そうは言っても、新しく帳面を作り、分類していくには、散逸の恐れ、分類に気懸かりとなって、手のつけられない状態になってしまうに違いないと思う。誰しも、正確に分類することはできないし、創作をする立場の者から言えば、全く意味のないことなんだ。帳面を作るなら、一冊で事足りることと思うよ。番号を付し、丁寧に要点を書いて、綴っていくことが必要だよ。そして短時間で書いていくことも。

 

 どうだ君、こうしてプールされた話の中に思いを巡らせ、その中から作品を生み出すような方法だってあるんだ。具体的な話題であればある程、執筆活動がやり易いのではないかな。