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「蔵王神社」

 

新潟梧桐文庫 佐藤悟郎

 

 

 私は長男を連れて蔵王神社へ初詣でに出かけた。私の長男は、今流行の心神症らしい。私としては長男の中に悪い霊がいるのではないかと思っていた。幼い頃からの奇声と変な歩き方は止まらなかった。

 

 葉の落ちた大きな欅に囲まれ、蔵王神社の社は聳えていた。境内のところどころには雪が溶けていて、欅の葉が土くれに混じって黒くなった姿を見せていた。午後の参拝者は疎らである。出店も青いシートが掛けられ、神符授与所にも巫女の姿はなかった。境内の広場には燃殻の山ができており、二年参りの人出を思わせた。

 

 私は神の前で、この一年長男にできる限りのことをすることを誓った。長男は神殿から外方を向いて祈っていた。帰るとき、長男が境内で遊びたいということで、欅の間を暫く歩いてみた。そんな時、私たちの前を猫が一匹横切ろうとした。私は長男にその猫と一緒に遊んだらと言った。長男はその猫を見ようともしなかった。妻の実家には大きな猫がおり、それを怖がったことはなかった。それなのに今の長男は、私が猫を招こうとするとひどく怯えた。

 

 蔵王神社からの帰り、道端の茶色の老いた猫が道の真ん中に出て、私たちの行く手で身構えた。私が手招きをするとどうだろう、その猫は私たちのところへ近寄ってきた。私はその猫の背や頭を撫でていると、長男は後退りをして怖いものを見るように体を小さくしていた。

 

 無理に長男を呼び寄せて、その猫の背中を撫でさせた。長男はすぐ離れた。私と長男は帰途についたが、暫くの間、その猫は私たちの後についてきた。猫に感ずる何かを長男は持っているのだろうと思った。猫が神で長男の悪い霊を試されたのかもしれないと思った。

 

昭和五十八年一月二日