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「砂塵」

 

        佐 藤 悟 郎

 

 

 忽然と砂漠の中に砂塵が舞い上がった。十人のアラビアの騎士の姿であった。彼等は近くの町に訪れた。

「我は、神ぞ。聖地に向かう者は、我に従え。」

人々は、彼等の言葉に信ずるところに従い、武器を携えて走り、あるいは馬を駆けていった。彼等は、多くの村を従え、戦場となっている彼方の戦地へと向かって行った。

 彼等の行く手には、二つの敵があった。一つは彼方の地を取り巻く優勢な軍であり、もう一つは神の名を偽り騙り戦っている集団だった。

「神の下に、恐れはない。」

そう語りかける十人の騎士に従う者は、夥しい数になっていた。

 彼方の地の境に達したとき、優勢な軍は彼等の前に立ちはだかり、攻撃態勢を整え対峙した。十人の騎士の一人は言った。

「争いは止めよ。アラビアの血は、アラビアの人達の手で流されるのだ。」

優勢な軍は、銃口を向け問いかけた。

「いかなるための進軍か。」

「我らは、神の軍であり、聖戦である。」

その答えに、優勢な軍はその道を開いた。そして、夥しい人々は彼方の地の聖地へと砂塵を上げて進入して行った。

 

 赤と青と、太陽と月の輝く「聖戦旗」を見たとき、人々は確かに「神」が現れたと信じた。しかし、彼方の地の軍隊は、砂塵を上げて迫りくる夥しい人々に砲火を投じ、多くの人々を殺し続けていた。間もなく、彼方の地の軍隊のどの指揮官も、「聖戦旗」が翻って落ちず、十人の騎士が、絶えず聖地に走る姿を見て恐れを抱き、過ぎ行く十人の騎士の顔を見て、地に跪き伏した。

「彼等は神だ、まさしく神の顔だ、従うのみだ。」

十人の騎士が過ぎたところには、もう争いはなかった。彼に従うだけだった。

 

 彼方の地、聖地の盟主は、邪悪な者達がくると言って、隣国に助けを求めた。隣国の盟主はこれを認め、彼方の地、聖地を救うため大軍を送って助けようと言った。そして大勢の人々が互いに対峙した。彼方の地、聖地の盟主は果敢な攻撃をした。隣国の盟主は彼方の地の盟主を助けて戦っていたが、途中で攻撃をすることを止めた。その理由は隣国の盟主が心の中で

「あれは、誠の聖戦旗ではないのか。」

と思ったからである。聖戦旗は、誰も見たことがない。ただ伝え聞いただけである。遠くにあるけれど、輝いて明らかに見える。そして、彼等からの攻撃は何一つなかった。彼方の地の攻撃で多くの人が倒れていく。

「聖戦旗の下には、神がいる。神は、決して攻撃などしない。ただ、ひたすら迫るだけだ。そうして滅ぼすだけだ。」

隣国の盟主はそう思った。

 

 聖戦旗の下に、十人の騎士の姿が現れた。隣国の盟主は、一瞬目を疑った。それは伝え聞いた怒りの神の姿だった。武器を捨て、隣国の盟主は地に伏した。十人の騎士は、揺るぐことのない早さで進んでいる。彼等を攻撃する彼方の地の軍の者は、次々と息絶えていった。恐れる者は、ただひたすら地に伏せていた。十人の騎士への攻撃は、どのような武器も通じなかった。

 

 騎士に向かって攻撃するものは絶え、彼方の地は静かになった。十人の騎士の一人が小高い丘の上に立つと、誰にも聞こえるような声で言った。

「皆の者よ、よく聞け。」

聖戦旗は、宙に上がり旗めき、青空の中から稲妻が走り、雷鳴が轟いた。

「我が教えの者共、我の名を騙る者を許るさじ。我が教えの者共、聖地を汚すなかれ。我は不滅なり、我を恐れよ。」

その騎士は剣を抜き払い、その剣を彼方の地の城に向け、ゆっくりと剣を上方に持ち上げた。凄まじい轟音と土埃の中に、彼方の地の城は宙に舞うと、空中で燃え始めた。それが燃え尽きると、次ぎは彼方の地の盟主を招き寄せた。

「聖戦を騙るまがい者、サタンよ。」

そう言うなり、剣は彼の胸を貫き、上に持ち上げ、宙に放りなげると、彼方の地の盟主は燃えて消滅してしまった。

「我を恐れる者は、助けよう。改めない者は、七日以内に死ぬであろう。この地は侵されるものではない。ましてや我に敵するものではない。我は、我が教えの民の父であるからだ。」

十人の騎士は、再び駆け出した。丘から宙に舞い、そして小さくなって人々の目から遠く見えなくなっていった。