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「佐代の道」

 

新潟梧桐文庫 佐藤悟郎

 

 

 その村に佐代という女性がいた。名前のとおり余り目立たない女だった。地元の小学校と中学校を卒業した。僻地の教育程度の低い地域だった。彼女は高校を希望をして高田の高校へと進んだのである。両親は心配をしたが、下宿生活も節度をもって過ごした。将来学校の先生になりたいと思っていた彼女は、新潟大学へと進んだ。物理学を修め、高校の教員となったのである。

 赴任して彼女が見たのは、高校の荒れ果てた学生の姿だった。とうてい彼女が過ごした高校時代からは想像もできないことだった。教育とは一体何なのかと思った。勉強意欲のない高校生に、何を教えなければならないのかと迷っていた。

 事業中に眠っている学生、授業を抜け出す学生、真剣に話を聞いているが理解のできない学生、何故こんな学生を高等教育の場に入れるのだろうかと疑問に思った。矛盾した現実を見つめ彼女は悩んだ。人生の希望と現実がいかにもかけ離れていたのだった。そして、彼女は教職を放棄することを決心したのである。

 彼女は次に進むべき道は何なのだろうかと思った。教師を辞め、彼女は故郷に戻った。故郷の美しい自然を見つめ、しばらくの間心に安らぎを覚えた。だが、過ごしているうちに、故郷に人間の息吹がないことに不安を感ずるようになった。世の中の人間について考えなければならないと思った。そう思うと文学の道を進むのがよいのではないかと、彼女は思った。

 

              平成七年六月二十四日