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「女子銀行員」

 

        佐 藤 悟 郎

 

 

 毎日集金にくる女子行員が来なくなった。違う女子行員が来ている。私は、その一日中がつまらなくなった。丸顔で髪を後ろで結い上げている、いつも来る女子行員の微笑みを見ると、一日は楽しかった。違う女子行員に、いままでの人が来ないのを聞けなかった。恥ずかしいからだった。

 会社の寮に帰って、蒸し暑い自分の部屋で寝転んだ。蝉の声が夕方になって一段と騒々しく耳に入ってきた。会社の寮は、林の中にある木造の建物だった。隣り部屋の同僚が、レコードをけたたましい音をさせて聞いている。

「何か、あったのだろうか。」

私は、暑苦しい部屋の中で、寝返りを打ちながら考えた。彼女は、銀行を辞めたのではないかとも思ってみた。

「明日、銀行へ行って確かめてみよう。」

私は、そう決心してしまうと落ち着いた。冷蔵庫からビールを出し、扇風機をかけて、スルメを肴に飲み始めた。寮の食事ができると、それを食べ、いつもの通り風呂に入って床に入り眠った。

 

 私は、些細な銀行への用事を作って、銀行へ行った。若い女子行員の軽やかな応対の声が聞こえた。私は、一枚の払込伝票を書き込み、銀行の事務室内を見渡した。そこには、私の目指す女子行員の姿はなかった。

「涼しいですね。少し休んでもいいですか。」

銀行の中は、冷房が効いて涼しい。私は、彼女が銀行を辞めたとは信ずることができなかった。小一時間ほど銀行で涼んでから、会社に帰った。会社に帰ると、上司に小言を言われてしまった。私は、本当につまらなくなった。四日の間、彼女の姿を見ていなかったからである。

 仕事が終わってから私は、彼女の住む集落に向かって歩いた。日が落ち、西の山の端に明かりが残るだけになった頃、彼女の住む集落が見える峠にたどり着いた。私は心の中で思った。

「この前のように、集落を歩いておれば彼女に会える。」

峠を下りて、集落の中を歩いていた。野良仕事帰りの集落の人々が、私を珍しそうに見つめながら行き交う。私は、大きな道を見つけ、歩いて会社の寮まで帰った。疲れが私を襲い、夕食をとると、風呂も入らず床に入り眠ってしまった。

 

 翌日の午前中、彼女が集金に姿を現した。内心、私は面白くなかった。彼女は、会社の受付の女の子に、北海道へ旅行に行ってきたと話していた。私は、彼女が私を見つめているのを知っていたが、私は彼女に馬鹿にされたようで、彼女の顔を見る気もなかった。彼女が黙って帰っていくと、尚更のこと、私は不機嫌になってしまった。