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「笛吹きと女神」

 

新潟梧桐文庫 佐藤悟郎

 

 

 人間の世界でも、私たちの知らない人々の世界があった。神々と美しい人々の世界である。そして、神々が人間に思いを寄せた時代でもあった。

 

 そんな人々の群れの中で、一人の笛の名手がいた。美しい愛の女神は彼に恋をした。女神は巧みに彼を森に招き寄せ、彼は軽い眠りに陥った。そして女神は身も心も彼の中に入り愛を結んだ。女神は彼の子を身籠もり生んだ。

 

 その息子は笛の名手となった。彼とその息子は連れ立ち、笛を吹きながら遠い土地まで旅をした。女神はいつも彼とその息子を見守っていた。

 ある日、彼は悪い領主に捕らわれ、魔法の笛を吹く者として十字架に縛られ処刑をされた。その息子は涙を流し悲しみ、そして女神は怒った。彼の屍を抱き上げ、悪い領主の前に出ると言った。

 「お前の愛する子供達は、お前の目の前で息 絶えていくだろう。」

その息子の吹く笛の音に誘われて、悪い領主の五人の子供達は姿を現した。悪い領主の前に立ち、剣を抜き払い自らの首に刃をかけて全て死に絶えてしまった。