リンク:TOPpage 新潟梧桐文庫集 新潟の風景 手記・雑記集



「平原の妖怪」 … 夢 …

 

             新潟梧桐文庫 佐藤悟郎

 

 

 緑の広がる草原、ここは高原なのだろう。人気の無いところだった。急に熱い空気が流れた。青い空の爽やかさが失われた。すると地鳴りが始まり、山が揺れた。私は地震がきたと思った。近くの高い山に、蒸気のような煙が流れた。硫黄の臭いがする。高い山が爆発すると思った。地鳴りと揺れはひどく、丘が波打ち、たちまち緑が失われていく。

 何処から現れたのだろう、多くの人々が丘の上に集まり、丘から下ろうとして道に溢れていた。丘は高く、険しい道が丘の中腹まで続いていた。私も、人々と一緒に丘から下ろうとしていた。緑の道は失われ、小岩が下へと落ち、岩肌が細かく崩れていく。私は、先を争って下っていった。

 

 やっと中腹の緑の草と樹木のある道に出た。人々は、更に駆け降りていく。私も走った。ふと私は気が付いた。

「私は、車で来たのだ。」 

私は、車をどこに置いたのか忘れていた。丘の反対側に忘れたのだと思った。反対側には、集落があるはずだった。私は引き返し、再び丘に登った。異様な臭いが充満し、高い山は噴煙を上げていた。今に、不気味な赤い溶岩が流れ出すだろうと思った。熱い空気が流れ、周囲は夜のように暗くなった。高い山の頂には、厳かに溶岩が溢れていた。間もなく、溶岩は不気味なオパールの赤光を見せながら、頂き全体に盛り上がり、ゆっくりと下へと流れ始めた。

 私は、山の反対側に出なければならないと思い走った。手掘りの荒い岩肌を見せるトンネルに入った。トンネルは下っていて、私は勢いを増して走った。どのくらいトンネルの中を走っただろうか、暑苦しいトンネルを抜け出し、林を駆け抜けて集落に着いた。

 私の車は、どこにも見当たらなかった。集落内の道には、人が溢れ、裏山の方へと動いていた。人々は、着の身着のままだった。私もその群衆の中に入った。左手の高い山は、噴煙を上げ、不気味な溶岩の光が見えた。確かに、この集落周辺に溶岩が流れてくる危険が感じられた。人々は、前方に見える峠を越えようとしている。その峠に辿り着けば、危険が無いのは明らかだった。人々は急ぐ、しかし遅々として前に進まなかった。

 

 やっとのことで、私は峠に辿り着いた。私の後から、うねるように人々が続いてくる。峠の頂にいくと、数人の者が菊の花弁で柵とも堰とも思える物を築いており、その奥に行くことはできなかった。生温い水が、広い平らな峠の中に広がり、人々はその水辺に散り散りとなって、休息をとっていた。

 柵の中に入ろうと思った。柵の中に私が知っている者がおり、私を柵の中に通してくれた。奥の林に囲まれたところに、小屋があった。私は、知人に家に帰るつもりだと話した。知人は、私の家のあるところは、以前とは全く異なる世界なのだと言った。私は、柵の中の一人から猟銃を手渡された。猟銃に弾丸を一発だけ込め、猟銃を肩に掛け、家に行くために山を下りていった。

 

 山道を下り、麓近くになると平原が広がっていた。その平原に、私の家があるはずだった。私は、山裾を見た。道がある。その道は、変わったところがない。麓の道沿いには、多くの神仏像があったはずである。遠くから見れば、それらの像の影が見える。

 私は、更に進み、麓の道まで行った。神仏像と思っていたものは、獣とも妖怪とも思われる奇異な怪物の像となっていた。怪物の像の目は巡り動き、体はうごめいていた。そして遠くを見ると、平原に砂塵が舞い上がり、私に向かって来るではないか。私は銃を取り身構えるとともに、警戒心を旺盛にした。