リンク:TOPpage 新潟梧桐文庫集 新潟の風景 手記・雑記集




「忘年会の翌日」

 

新潟梧桐文庫 佐藤悟郎

 

 

 煙草の煙が濛々と立っている中での忘年会だった。彼は一人の若い女性を見つめていた。職場では同じ部屋で一緒に働いている美しい女性だった。彼は彼女の行動をつぶさに見つめていた。同じテーブルの向かいに座っている中年近くの同僚と話をしている。周囲の人は酔っ払っており、彼女と中年の同僚の行動ははっきりと見えた。

 二人は相槌を打つように一緒に立ち上がると、別々に他のテーブルを巡るようにして歩き、宴会場の入り口で落ち合い姿を消していった。彼女と中年の同僚は会社の同じダンスクラブに入っており、二人が深い仲になっている噂も聞いたことがあった。中年の同僚は妻と子供三人の家庭を持っていた。彼女は独身で、一見しておとなしそうな美しい瞳を持つ女性だった。

 

 忘年会の翌日、彼は二日酔いで頭が重く、机に両肘をついてボーとして煙草を吸っていた。彼女は出勤してこなかった。彼は中年の同僚の室も訪ね、出勤していないことを確かめていた。

 「何て馬鹿な女なんだ。淑女振って。」

彼は心の中で呟いた。夕方になって彼に彼女から電話があった。駅前の喫茶店で会いたいと言ってきたのだ。

 仕事が終わり、少し遅れて彼は指定された喫茶店に入った。彼女は雑誌を見ながら待っていた。

 「私が今日休んだのは訳があってよ、会社の 人、何か噂なんかしてませんか。」

彼が彼女と向かい合って座って、いきなりの彼女の言葉だった。

 「今日は忙しくって、でも、何も聞いてない よ。」

彼は少し微笑み、軽い言葉で答えた。

 「今夜は私と付き合ってくれる。楽しく遊び たいの。」

彼は彼女が言うまま、連れ添って夜の街へ出かけた。

 

 酒を飲んだり、踊ったりして過ごした。もう零時も過ぎたころ、二人は静かな喫茶店に入った。

 「昨日、私に何があったか知っている。私、 どうしてもあなたに聞いて貰いたいの。」

彼は黙って彼女の話を聞いていた。彼女は忘年会のあと中年の同僚と遊びに出たこと、酔っ払ってしまったこと、眠たくなってしまったこと、二人でモーテルに入ったこと、朝目を覚ましたら出勤時間はとうに過ぎていたことなどを話した。

 「私って、いけない女なんですね。」

涙で溢れる瞳を彼に向け、最後にそう言って彼女の話は終わった。

 彼は彼女の話を聞いて悲しく思った。彼女がどうしてそんな馬鹿なことをしてしまったのか。よりによって、同僚仲間でも下らない男と評判のある男と一緒になってと思った。

 「貴方ともお別れですね。とても悲しい。」

彼女は彼の顔を見つめた。彼も悲しかった。どうしたらよいのか、どんな言葉をかけたらよいのか見当もつかなかった。彼もただ彼女を見つめるだけだった。そして彼は、このまま二人とも化石となり、永遠に過ぎていけばよいと思った。