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「絵描き探偵」

 

新潟梧桐文庫 佐藤悟郎

 

 

 彼は、毎日のように公園に出かけていた。純真な子供達と、はしゃぎながら遊ぶのが好きだった。ある日、恵子ちゃんが見知らぬ男と話しているのを見た。年配のサングラスをかけている男だった。彼は、その男に右耳から首にかけて傷のあるのに気付いた。

 

 雨が降ってきて、子供達は家に帰り、彼は濡れながらアパートに帰った。翌日も雨だった。次の日は、晴れていた。午後になって、テレビで恵子ちゃんの他殺死体が発見されたのを知った。

 

 彼は、あの日から恵子ちゃんが帰えらなかったのだと思った。夕方になって、突然警察官が彼の家に踏み込み、家の中を荒らし、彼は警察署に連行された。

 

 厳しい取り調べに対し、彼は正直に話したが、皆が疑いの目を持って彼を見つめた。彼は、作り話をするなとまで言われ、多少傷付いてしまった。ただ、そんな中で、一人の中年の刑事が彼の言うことを美しい目で聞いていた。別に、偉そうな風もなく、真面目そうな刑事だった。

 

 夜中になって、彼はようやく解放された。深い眠りに就き、朝、目を覚ますと、外に誰かがいるのに気付いた。彼が外に出てみると

「貴方の話がもっと聞きたくて、来ました。」

と言って、美しい目をした刑事が入ってきました。

 

 彼は、その刑事を部屋に通した。

「そう言えば、見慣れない車がありました。」

彼は、そう言って紙を出すと、当時の状況を絵に描いた。

「そう、私から見てこうです。話をしていた時の恵子ちゃん、そしてその男、その後の風景、こうですよ。」

やはり画家志望の彼である。絵を描きながら細部まで思い出していく。連続的に、半日かかって十枚もの絵を描き上げたのだった。

「済みません、色を塗ってください。」

目の美しい刑事は、彼に言った。彼は、更に車や男の拡大した絵をも描き続けた。

「大したもんです。写真より正確です。」

目の美しい刑事は、感嘆の意を表した。彼は、幾つものポーズから、男の身長や体格、特徴、服装、そして車の色々な特徴を思い出し、丁寧に目の美しい刑事に語っていた。

「よかったら、一緒に探してくれませんか。」

目の美しい刑事は、そう言って彼に笑顔を見せていた。それから、彼は探偵ごっこをやるようになった。