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「銀杏の葉」

 

新潟梧桐文庫 佐藤悟郎

 

 

 銀杏の葉には、私も想いを寄せるものがある。冷たい風が吹く晩秋、校舎の前の銀杏の木の幹に近付き、見上げると、目を痛める程の純潔な黄色が広がり、空を遮っている。柔らかな広がりの中に、大きな枝と小さな枝が黒く見える。私は、その銀杏の葉を拾い、本や胸ポケットにしまい込んだ。

 

 はらはらと銀杏の葉が散っていく。早いものだ。散っていくのを見るのは、三度目の秋である。地に舞い落ちる銀杏の葉は、それで終わることはない。銀杏の葉は、地上一面を美しく黄色に染め抜き、時に、風に弄ばれ舞い上がり、歌うのである。つむじ風が吹けば高く舞い上がり、ヒラヒラと舞いながら降りる。一枚が降りれば、次の葉が続いて高く舞い上がる。

 

 高くから舞い降りる銀杏の葉、地上から舞い上がる葉、そして周辺には白くなった枯れ草があり、赤く色付いた紅葉、緑を残す蝦夷松などがざわめき立てている。小さなざわめき、大きなざわめきが溶け合い、音楽を奏でていた。

 

 黄色い妖精は、私に囁く。

「貴方も踊りなさい。さあ、私のところへいらっしゃい。憂いなんか忘れなさい。」

私を手招きし、更に続けた。

「さあ、目を閉じてごらん。そう、私が見えるでしょう。こっちにおいで。」

私は、目を閉じた。黄色い姿をした妖精に向かった。そして、一枚の黄色い葉となって、幾度も舞い踊った。そして心が清らかに、豊かになっていくのを感じた。