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「喫茶店での別の青年」

 

新潟梧桐文庫 佐藤悟郎

 

 

 小さな田舎町の商店街に、一軒の小さな階上喫茶店がありました。狭い階段で、通る人が見落としそうな店でした。彼女は、彼との約束の時間より早く店に入り、奥のテーブルに腰掛けました。コーヒーを一口のみ、何気なく正面を見ました。薄暗い中に、白いセーターを着た青年が、彼女の目に止まりました。彼女は、その青年に何故か心惹かれるものを感じました。

 

 店は、クラッシック音楽が流れていましたが、音楽を聴いている様子もなく、ただ煙草を吸い、遠くを見つめるような目をし、微笑んでいました。彼女は、青年が自分を見つめているようにも思ったのです。間もなく、彼がやってきて彼女の前に、にこやかに腰掛けました。彼の姿で彼女からは、青年の姿が見えなくなりました。

「このステンドガラス、綺麗だと思わないか。」

彼女は彼に言われ、自分の背後にあるステンドガラスを振り返って見ました。ステンドガラスには、キリストの姿とそれを取り巻く使徒の姿があったのです。彼女は、青年が見ていたのは、このステンドガラスと思いました。

 

 彼女と彼が話し込んで、どのくらいの時間が過ぎたのでしょうか。彼が体を少し横に移したのです。彼女の目に、青年の姿が飛び込んできたのです。紛れもなく、青年は彼女の瞳を見つめていました。彼女は、一瞬落ち着きを失い、目を伏してしまいました。彼に怪しまれないように、彼女は左手で頬杖をし、体を少し横に移し、彼の目だけを見るように努めました。彼女は彼と話しながら、この田舎町に青年のように、優しく鋭い瞳を持つ青年がいたのかと思いました。激しく、赤い心の炎を掻き立てる視線を感じていたのです。

 

 彼が、タクシーを呼ぶために、店の出口に近いカウンターへ行きました。その間、彼女は緊張した思いで青年を見つめました。どのくらいの時間だったのでしょう。長く、甘くて重苦しい時の流れに感じたのです。

 

 彼女は思いました。そして深く心に感じたのです。青年の瞳の中には、彼の幾万通の恋の囁きよりも、彼の瞳の輝きよりも、如何に心に恋を語り、激しく燃えていることか。彼女は、青年に微笑んで軽く頷きを見せました。青年から、優しそうな微笑みと頷きが返ってきたのです。彼女は、胸に熱いものが溢れ、体が少し硬直するのを感じ、顔がクシャクシャになるのが分かりました。

…この青年に縋っていきたい。激しい心、優しさ、清々しさ、これこそ愛だ。この青年に縋っていくべきだ。…

彼女は、項垂れて彼の後ろを歩きながら、心でそう考えたのです。

 

 青年の側を通る時、彼女は女らしい会釈をしました。

…貴方に必ず会いに来ます。毎日でも、この喫茶店に来て、貴方に会います。…

青年の優しい瞳を見つめながら、彼女は心の中で誓いを立てたのです。