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   「公園での殺人事件」
 
                        佐 藤 悟 郎
 
 
  真夜中に若く美しい女性が、一人で自転車に乗っている。家に帰るのだろう。少し急いでいる。公園の前の暗がりを通っている時、その女性は、不良の男三人組に取り囲まれ、乱暴されていた。
 
 公園で涼んでいた彼は、その物音に気付き、若い女性を救うため、不良達の中に躍り込んだ。そして、殴り合いとなり、女性はその場から遠のいて様子を見ていた。間もなく警察官が来て、四人を捕らえると、女性は黙ってその場から立ち去った。
 
 警察で彼は、身の潔白を主張したが、受け入れられず、喧嘩両成敗として処理された。彼は、思わしくない社会なんだと思った。
 
 そして、数日後、彼がまたその公園を散歩している時に、女性の悲鳴が聞こえた。先日の不良三人組が若い女性に乱暴を働いていたが、関わり合うことを嫌い、彼は家に帰ってしまった。翌日、彼はテレビのニュースで、その若い女性が殺されたのを知った。
 
 彼は、その殺人事件について、救おうとしなかったことについて、深い悲しみを感じた。何故救わなかったのだろう。それは、警察の態度であり、あの現場から立ち去った、女性の態度のためだったと思った。
 
 不良三人組は、犯人として逮捕され、事件は解決した。彼は、警察に参考人として呼ばれた。
「何故、君は救ってくれなかったのだ。」
警察は、彼にそう言って責めた。彼は、警察に対して激しい憎悪を示した。
「警察は、何故、あの日私の言うことを聞かなかったのだ。私を信ずれば、こんな事件は起きなかったのだ。」
彼は、そう言うなり警察から立ち去った。
 
 あの日、事件現場から立ち去った若い女性は、彼の存在を知ると、感謝とともに恋心を抱き、彼の前に現れたが、彼はそれを拒んだ。彼の心から、殺された女性への自分の行動が不適切だったと思うと、呵責の念は消えることがなかった。そして、人の善性は、何事であれ、どんな時であれ、善でなければならないと思った。その善を失えば、他の誰も慰めにならないし、罪を贖ってくれる者はいないと思った。