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「雪の中」(その二)

 

       佐 藤 悟 郎

 

 (その一 (その その

 

 

 定男君は、ガキ大将で子分のような人がたくさんいたのです。でも、悪いと思われることは、何一つしていませんでした。却って、今迄悪い人だと思っていた人が、定男君の子分になると段々と良くなっていくのを知っていました。だから、このクラスには、意地悪の人はいなくなったのです。定男君は、悪い人を許さない喧嘩の強い英雄なのです。
 私が、外に出ると、もう二つのグループに分かれていて、二つの大きな陣が作られていました。一方は、定男君に連れられた十二、三人で、もう一方は、秀紀君の率いる二十七人のグループでした。面白いことに定男君の方には、女子生徒は一人もいませんでした。勿論、雪合戦をやるのである。私が秀紀君の方に行こうとしたとき、
「幸子、定男の方にも、女の子を集めてやれよ。」
いつの間にか、私の後ろに来た木元先生は、私に言ったのです。
「私は嫌よ、乱暴なんですもの。」
と言ってやったが、先生は、私の言うことを聞かず、五、六人の女子を手招きして集めました。私と仲の良い女子ばかりだったのです。仕方なしに、定男君の方私は残りました。
「おーい、両方、出来上がったら、戦闘開始だ。」
木元先生は、そう怒鳴り声を上げると、校舎の中に消えていきました。
「私ら、何をしたらいいんじゃ。」
そう豊子は、定男君に言ったのです。定男君は、私達に近寄って
「君らも、球を投げれよ。」
「嫌、届かんもの。」
「じゃ、もっと前に陣を作ろうか。」
どうも、定男君は、私達にも、球を投げさせる気でいたのです。
「じゃ、立っていれば、当たるね。」
そう言われて、私は陣の中を見渡した。
「あっちの方、悟君が作っている壁のところにいれば、当たらないよね。」
定男君に言うともなく、私は仲間の女子に言ったのです。
「おい、悟、そこに何人くらい隠れる。」
「四、五人だよ。」
定男君は、それを聞いて
「五人くらい、そこに隠れていな。」
と私達に言いました。不満そうな顔をして、私は、言ってやったのです。
「皆んなが入れて、隠れられないの。」
「サッチャン、雪合戦て、隠れるもんじゃないんだ。戦うんだ。人に当ててやると、楽しいよ。」
「あら、向こうは大きいのを作ったわ。」
「じゃ、向こうに行ってもいいよ。」
「あら、怒ったの。」
定男君は、怒ったらしく、それきり話もしませんでした。よく陣を見ると、向こう側は、薄く崩れそうでした。

 雪合戦が始まると、向こう側からは、無駄玉が多かったのです。こっちからは、ただ上へ投げるだけでした。向こうの陣で隠れていると、上から雪玉が落ちてくるので、時々悲鳴が聞こえてきました。私も男子と一緒に投げました。投げた雪玉が相手陣地に届くので面白いのです。ただ、上に向かって投げればよいのです。私の雪玉にも、時々当たるらしいのです。
「それ」
と定男君の声が、高く聞こえたかと思うと、私の額に雪玉がぶつかったのです。ボンと鈍い音を立てて、私は、咄嗟に伏せました。
「サッチャン」
定男君は、私に声を掛け、私を壁の穴の中に連れて行って、頭の雪を払いながら
「痛くないか。」
と、心配そうに言いました。少し痛かったのですが、私は少し笑いながら
「うん、痛くない。でも、誰がぶつけたの。仇を取らなくちゃ。」
私は、少し負け惜しみぽく言いました。
「もう、仇は取ったよ。」
と定男君は言うのです。話によれば、誠君が顔を出して急に投げたので、定男君の掛け声で、左手に用意していた玉を一斉に投げ、いっぱい誠君にぶつけたとのことでした。
「サッチャン、悔しいか。」
「ええ、悔しい。」
「よーし、向こうを降参させてやる。」
「できるの」
私は、定男君が嘘で言っているのではないかと、少し心配しました。定男君は、雪玉を一つ、しっかりと握り、力一杯相手側の壁に向かって投げたのです。勢いよく玉は相手の陣に当たり、薄い雪壁の中腹にポッカリと穴が開いたのです。
 次々と、定男君に倣って、皆んなが投げていきました。そして、相手側の陣は、段々と崩れていって、低くなってしまったのです。相手は、皆んな校舎の中へ逃げていきました。最後に誠君が逃げていこうとしたので、私は急いで球を投げましたが、届きませんでした。
「ようし。」
隣にいた定男君は、雪玉を誠君に目掛けて投げつけたのです。その雪玉は、逃げていく誠君の後頭にポカッと当たりました。私が投げたように思えて
「うわあ、万歳」
と知らず知らずの内に喚声を上げました。
 放課後になって、掃除の時間になると、定男君は皆んなに言ったのです。
「おい、皆んな、鞄を持って理科室に来い。掃除だ。」
そこにいた男子は、奇声を上げて校舎へ入っていきました。私達は、陣に残り楽しい思いに耽っていた。 

 

 

 その一 (その その